2009年12月26日

自反

「我日に我が身を三省す」(論語学而篇)。

昭和天皇の玉音放送の原稿を起草されたことで知られる安岡正篤先生の講話録で、何度も強調されているのがこの「省」という言葉。
勿論「省みる」という意味もあるが、もう一つ大事な「省く」という意味がある。
即ち「かえりみ・はぶく」である。
これによって人間本来の進歩・向上力が生まれる。

さらに世の政治に関して安岡先生は述べられる。

「民衆の良心を代表する指導階級の人々が、民衆の代わりに省みて、余計なことを省く。これが政治だ。だから役所のことを省という(大蔵省、外務省、、、、、)。
よって役人というものは、つまらないことを省けばよいのだ。

ところが役人は省でなくて冗をやる。
濁音をつけた冗のほうである。文部冗、大蔵冗、、、、、、かくて冗費ばかり多くなる」(昭和40年7月講話録)。

さて今年一年を象徴する漢字には「新」が選ばれた。
国民の多くが新しい世の中、社会を期待した顕われだろう。
そして国民の期待どおりに8月末には自民党から民主党へ政権交代が実現した。
「政治主導の政権」というのが売りの民主党政権だが、果たして期待どおりに旧弊を正し、「省」に則った新しい政治の実現ができるのだろうか。
国民の良心を代表する指導階級の鳩山総理、同じく小沢幹事長、両名には先ず率先して自己を「かえりみ・はぶく」ことを期待したい。

そして社会の公器たる大企業の経営者達にも「かえりみ・はぶく」ことで、暮れの失業者90万人増(対前年)という異常な事態を少しでも食い止めて欲しい。
日本の衰亡を救うには、あらゆる意味において「自ら反らねばならない」(安岡正篤著『知命と立命』)。

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2009年12月19日

批評的態度

森信三という哲学者(教育者)の名前をご存知と思います。
私が30代の頃、この先生の著書を少し読み始めた時期がありましたが、なんと厳しい、また窮屈な説教をする先生だなという印象を持ちまして、しばらくこの先生を敬遠していました。

しかし、なぜか久し振りに森信三先生の「修身教授録」という本に惹かれて読んだところ、正に自分の至らなさをドンと衝かれた思いがしました。

「人間はいかに生きるべきであるか、人生をいかに貫くべきであるかという一般的真理を、自分自身の上に落として来て、この二度とない人生を、いかに生きるかという根本目標を打ち立てることによって、初めて私達の真の人生は始まると思うのです。
このように私は、志を打ち立てるところに、学問の根本眼目があると信じるものです」。
「人生二度なし」、重い真理です。
そして特に私がハッとさせられたのは、「人間は批評的態度にとどまっている間は、その人がまだ真に人生の苦労をしていない何よりの証拠だとも言えましょう。
もちろんその人の性質にもよることですが、とにかく自分は懐手をしていながら、人の長短をとやかく言うているのは、まだその心に余裕があって、真の真剣さには至っていないと言ってよいでしょう。
つまり批評知そのものが悪いというわけではありませんが、同時にそのままいい気になったんでは、人間も真の成長はしないわけです」。

以上、同著より抜粋しました。
自分の至らなさを素直に胸に染み込ませてくれる著書です。

確か孟子か何かの言葉に「自反(自省)」という言葉があったと記憶しています。
自分を省みるという作業、年末の大掃除と同様に人間にとってより大事だと分かりました。

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2009年12月12日

父と子

次の文章は、ある著名な作家の文章です。
誰が書いた文章か分かりますか?
当ててみてください。

「いまでも、母親はわけもなく子を愛し、子供といっしょになって父親に対抗し、その子が父と不和になる例はいたるところで見られるとおりである。ことに現代、父親の権威の失墜にともなって、ますます母親っ子がふえ、アメリカにいわゆるドミネーティング・マザーのタイプが激増している。父親は疎外され、父親と息子との間における武士的な厳しい伝承の教育は、いまや伝承すべき何ものもないままに没却されてしまい、子供にとってすら父親は、ただ月給を運ぶ機械にすぎなくなり、なんら精神的なつながりの持たれないものになってしまった。いま男性の女性化が非難されていると同時に、父親の弱体化はこれと符節を合わして進行していると思わねばならない。」
という文章です。

実はこの文章は、昭和42年の三島由紀夫の「葉隠入門」の一節です。
正に今、私自身が父親として同様の無力感を感じている最中に有る訳ですが、その理由を三島由紀夫は明快に解説してくれます。
敗戦後の日本社会が、戦勝国アメリカの文化に浸蝕され、かつての日本人の生活の支柱をなしていた掟や慣習が廃れることで、道徳的精神的な荒廃を来たしたというのが三島由紀夫の分析です。
そして近頃の流行り言葉に「草食男子」という流行語が生まれるように、間違いなく昭和42年当時よりも事態は深刻化しているはずです。

三島由紀夫が自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決したのが、この3年後。

「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり」、
「葉隠」の有名な一句です。

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2009年12月05日

日本の第九

いよいよ12日(土)には、私のライフワークの一つとも言える「日本の第九」の演奏会が3年振りに開催されます。

初回の開催は16年前の1993年、萩で初めて日本語で歌いました。
16年前ですから私もまだまだ若くて30代。
以来、ほぼ3年のサイクルで日本語の第九演奏会の開催に関わって来ました。

第九をやるとなると何が一番大変かというと、やはりオーケストラの費用捻出。
通常プロのオーケストラだと600万円以上のギャラが必要です。
これに指揮者、ソリスト4名のギャラを加えると総計700万円以上。
とてもじゃないが多額の助成金が無いと先ず開催まで漕ぎ着けることはできません。
それに合唱団員集め、これも中々大変です。
半年間に渡る長丁場の練習を上手く運営する練習指導者も必要です。

今回開催できるのも、16年前の第九開催以来毎年交流を重ねて来た姉妹都市鎌倉の仲間が、鎌倉のオーケストラを引き連れて(それも全員手弁当で)萩まで来てくれるからこそ。
そもそも私達が日本語の第九に取り組んだのは「クラシック音楽をお年寄りから子供まで、誰でも気軽に楽しめる社会に」との思い(当時の私は『草莽崛起』と呼んでいましたが)で始めた訳です。
しかし残念ながら、一部の音楽関係者には未だにこの趣旨を理解してもらえず、全く協力が得られません。
まるで自分達の既得権を侵す危険な連中と位置付けられているようです。

でも「草莽崛起」を謳うぐらいですから「志」だけは負けていないつもりです。

さて、皆様に御願いがあります。12月12日(土)開催の「日本の第九演奏会」、ぜひ私の「志」の証人になってください。

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2009年11月28日

松下幸之助翁の志

上甲晃氏という先生の講演を聴く機会を得た。
この先生、例の松下政経塾の塾頭なども長く勤められた方である。
「志を教える 松下幸之助の“人づくり”」と題して90分間のお話しだった。

数ヶ月前にこの先生の書かれた著書を読んでいたので、どんな話をされるか興味があった。

何故に松下幸之助翁は85歳という高齢で私財70億円も投じて政治家育成のための松下政経塾を創られる気になったのか?

上甲氏が言われるには、これが松下幸之助翁の「志」であると。
志とは自分が存命中に果せなくても、50年後100年後に世に役立てば本望とする目標であると。
正に松下幸之助翁の「これから100年の内に政経塾から真の志を持った政治家を一人でも育てたい」という決意、これこそ志というものだろう。

政経塾で学べる人の資格は、「地盤、看板、カバン」の三バンを持たない人、親が政治家でない人。
実際政経塾出身者が選挙に出る際も、一切松下電器系の応援は無いそうだ。
みんな自分の力だけで政治家を目指している。

現在の民主党政権で言えば、前原国交大臣、原口総務大臣、その他野田佳彦財務副大臣等々政経塾出身者が何人もいる。
勿論彼らがみんな「志」を持った政治家かと尋ねられたら、「これからの彼らの行動を見ないと志か野心か分からない」と答えるしかないが、実際に選挙で「三バン」の無い政治家が出て来ているという状況は、松下幸之助翁の志の影響力なのかも知れない。

それにしても話題の「官房機密費」、選挙惨敗確定の翌日に2億5千万円もの支出。
この行為、果たして「志」に基づくものなのだろうか?

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2009年11月21日

市橋容疑者逮捕

人間の弱さと、そして生への執着の強さを浮き彫りにした酷い事件です。市橋容疑者逮捕のニュース。
自分の顔を不細工に整形までして、それも何度も何度も整形して、逃げ切ろうとしていた市橋容疑者。
そして職場の人間との接触を避け、常に周囲の目に怯えながら、ただただ逃走資金を稼ぐために必死に懸命に働いていた。
しかも事あるごとに「すいません」を口にし、付いたあだ名が「スイマセン」だったそうだ。

考えたら、なんか可哀想な気もして来る。

もし彼が自分の子どもだったら親としてどんな気持ちになるだろう?
勿論殺人者を擁護するつもりは無いが、どうしてこんな事件を起こしてしまったのか。
これが人間の哀しい性(さが)というものだろうか。

被害女性の英国人のご両親にしてみれば、怒りと憎しみで本当に辛かろう。
この事件は、自分自身を含め、あるいは衝動的(計画的?)に犯罪に手を染めてしまうかも知れない人間の弱さと哀しさを改めて感じさせた。

自分が市橋容疑者の親だったらどう振舞うだろうか。
新聞報道で見る限り、報道陣から逃げないでちゃんと対応している。
「逮捕されて安心した。ただ親不孝なやつだ」。
父親の正直な気持ちだろう。
昔ある先輩から教えられた親の心構え。
「わたしはいつも子どもに言っています。
『もしも世間中の人があなたを非難するようなことになっても、わたしだけはどんなことがあっても最後まであなたの味方だからね』と」。

これこそ「親ばか」?
それとも「無私の愛」?
私だったどうするだろう。
親としての心構えを改めて考えさせられた事件である。やはり犯罪は多くの人を苦しめる。

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2009年11月14日

大臣命令

長妻厚生労働大臣の「年金相談担当職員は名刺を渡せ!」という就任後初めての「大臣命令」。
この記事を新聞で見た時は、「なかなかやるじゃない」と一瞬思ったのだが、よく考えるとそうでもない。
何故なら全国の年金窓口の大半の職員は、いわゆる「非正規職員」。
1年契約で更新される契約職員。
中には社会保険労務士会から派遣される請負契約の社労士もいる。

この大臣命令、非正規職員にこれまで以上の過大な負担と責任を強いることになる。

長妻大臣の意図は、「職員に緊張感と責任感をもって仕事に当たってもらう」ことだそうだが、正職員と違って僅かな「報酬」で年金相談の最前線で働く弱い立場の非正規の職員達に、これ以上負担を掛けてどうしようというのか?
恐らく「ミスター年金」と呼ばれる長妻大臣、現場の実状が何も分からず、発した命令だろう。

確かに「職員個人の責任をはっきりさせよう」という意図は理解できるが、そもそも職員個々人の責任云々は組織内部で対応する問題ではないのか。
仮に窓口職員がミスを犯して、年金受給者(国民)に損害を与えた場合、国民はその職員個人の責任を追及する訳ではないだろう。
あくまでも社会保険事務所(社会保険庁)を相手に責任を追及することになる。
これは民間の会社でも同じ。
社員がお客に仕事上の損害を与えたら、先ずは会社が責任を負う。
個人の責任云々は会社の内部で問われる問題だ。

今回の「名刺を渡せ」命令、渡す相手がほとんど高齢のお年寄り、恐らく「言った、言わない」の水掛トラブルが起きるだろう。
3年も5年も経って「あの時○○さんがこう言った。名刺もある」と。
名刺を渡す非正規職員、たまったものじゃない。

現場の実態をもっと勉強する必要があると思いますよ、長妻大臣さん。 

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2009年11月07日

コンコルドの誤謬

「質問1:あなたがある有名な電気メーカーの経営を任されたとする。
その会社はエコ技術が最先端を行く革新的な電気製品の開発に、既に10億円を投資している。
このプロジェクトは、現在ほぼ80%の達成段階に漕ぎ着けた。
しかし最近入った情報では、ライバル企業が既にあなたの会社が開発中の製品よりも機能的で値段も安い製品の販売を始めていることが分かった。
さて、あなたは新製品開発の達成に必要な残り20%、2億円の投資を実行しますか?」。

通常、この質問には約85%の人が「イエス」と答えるらしい(「経済は感情で動く」マッテオ・モッテルリーニ著)。

しかし、同様のケースで既に投資された金額がゼロの場合には、新たに2億円を投資するかと質問された場合は「イエス」と答える人は激減する。

これが「コンコルドの誤謬」と呼ばれる「経済が感情で動く」モデルの一例。

即ち、「過去の投資が将来の投資を左右する」こと。
あの有名な英仏共同開発の超音速旅客機コンコルド。
開発の途中で、たとえ完成しても採算が採れそうに無いことが予測されたが、既に巨額の投資を行っていたため、止めるに止められず、そのまま開発を進めた。
しかし、結局採算が採れず赤字が膨らんで多額の損失を出したという事例。経済が、ともすれば人間の感情に左右されるという典型的な事例、「コンコルドの誤謬」。
どこでもありそうなパターンである。

この「誤謬」、今民主党政権の進める「ダム工事中止、凍結」問題にも繋がるような気がする。
そう簡単には関係者は納得しないだろう。
なぜなら、やはり「人間は感情の動物」だから。フランスの哲学者パスカルも「心にも、理性の知らない理屈がある」と言っている。
正に理屈だけでは納得できないのが人間。
となれば「ダム工事中止、凍結」も理屈だけでは中々納得は難しい。

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2009年10月31日

さぶ

「悪かったよ栄ちゃん、勘弁してくれ、おらだよ、ここをあけてくんな、さぶだよ」。

ある先輩に薦められて読んだ山本周五郎の「さぶ」の最後の一行。
なぜこの小説が胸を打つのか考えてみた。
そうか「情」だ。
互いに物言わずとも分かり合える人間同士の情。
「さぶ」に登場する兄貴分の表具師の英二、そしてさぶ。
誰かの書いた書評に「『人が生きる』ということの困難さ、困難さの逆の幸福、そして友情・我慢など『生きる』上でのすべてのことがこの本に詰まっている」、「負け組にも人生はある。
まっとうに生きていれば、何人たりとも恥じることはないと教えてくれる作品である」等々。
今どき栄二やさぶのような人物が日本にいるのかとも思えるが、でもどこかに居そうな気もする。
そして、まっとうに生きる栄二やさぶの姿が、まぶしく感じる。久方ぶりに濃い余韻の残る小説だった。
1か月を経た今でも時々栄二やさぶの姿が浮かんでくる。
弱い者同士が互いに助けあって人生をまっとうに生きて行く。
この小説、色んな場面で胸を打つシーンが豊富だが、栄二が辛苦の末に漸く表具師として独り立ちしたものの仕事の依頼がさっぱりで、食べるにも困窮する状態の時、馴染みの飲み屋の女中おのぶとの遣り取りも鮮明に記憶に残るシーンだ。
「男が稼いで妻子を養うのは、当たり前じゃないか」と言う栄二に対し、「とんでもない、冗談でしょ、人間が人間を養うなんて、とんでもない思いあがりだわ、栄さんが職人として立ってゆくには、幾人か幾十人かの者が陰で力をかしているからよ、――さぶちゃんはよく云ったでしょ、おれは能なしのぐずだって、けれどもさぶちゃんの仕込んだ糊がなければ、栄さんの仕事だって思うようにはいかないでしょ」と栄二をなだめるおのぶ。
正に人生の教科書的な小説でもある。
K先輩のみならず、私も是非お薦めしたい一冊です。

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2009年10月24日

笑顔のあるお店

ここ最近このコメントがどうも悪口ばかりになってしまって、、、。
よっぽど欲求不満なのかと疑われるのも癪なので、今回は気持ちの良かった経験を紹介する。

この8月に「元気食堂」という名前の食堂が、萩市民館内に新たにオープンした。
前の経営者が売上不振で閉店してしまい、新しい経営者が中々見つからず、市民館利用者も困っていた。
しかし、商売する上では立地的にも集客対象が限定され、中々厳しいだろうと予想される。
結局萩市の働きかけで、料理のプロも参加している市民グループが経営を引き受けることになった。

苦戦必至の開店だったと思うが、案に相違して連日賑わっている。
私も一度行ってみようと思いつつ、いつもお昼時は満席のため中々行く機会が無かったが、先日漸く早めの昼食で「元気食堂」を利用できた。
先ずお店に入ると女性従業員が注文の受付をしている。
これが中々笑顔が好い。
まず合格。
そして料理は野菜料理だけのバイキングで8品程度種類がある。
それにご飯と味噌汁。
これで490円、値段のセンスも良い。
これだけではない。
食事をしていると男性従業員(マネージャーっぽい)がテーブルを挨拶しながら、それも笑顔で回っている。
もうこれで文句の付けようがない。
「合格!合格!合格!」。
正に「笑顔は七難隠す」を地で行くスタイル。
勿論豪華な昼食ではないが、この「笑顔のふりかけ」だけでお客さんは、ほぼ満足するのじゃあなかろうか。
これが笑顔の効用だ。

お金を掛けずにお客を気持ち良くさせる自然なサービス。
改めて認識できた。笑顔があれば少々のことは気にならなくなる。
是非これをお隣りの大型店の萩市役所でも率先して欲しい。
おそらく市民とのトラブルもきっと減るはずだ。

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